<記録的な性質の著作>

○『人身売買 −海外出稼ぎ女−』 森克巳 昭和34年(1959) 至文堂

 九州大学の教授であった森が、昭和24年という戦後の最も早い時期に天草に調査のため渡り、「いままで誰も学問的なメスを当てたことのない"天草女"の問題」を論じたのが本書です。調査のさなか、『村岡伊平治自伝』の原稿とも接したりしています。からゆきさんがまだ強いタブーであった頃の聞き取りで、いわば記念碑的な一作といえましょう。

○『娼婦 海外流浪記』 宮岡謙二 昭和43年(1968) 三一書房

 世界に散らばっていったからゆきさんの姿を丹念に拾い集めた、ほかのだれも書けないと言ってよい書です。『異国遍路死面列伝』と共に、天下の奇書と呼んでもいい程の独特の世界が広がっています。

○『からゆきさん』 森崎和江 昭和51年(1976) 朝日新聞社

 からゆきさんについての調べを最も早く始めた一人が、この森崎です。著作は多数を数えています。彼女の文章からは、村の鎮守(ちんじゅ)の森で膝折って、掌を合わせて祈っているような空気が立ち昇っています。からゆきさんについての一冊を、と言われれば私はこれにします。

○『サンダカン八番娼館』 山崎朋子 昭和47年(1972) 筑摩書房

 山崎にはほかに、『サンダカンの墓』や『あめゆきさんの歌』もあり、からゆきさんの名を一般的にしました。内容も文体も森崎とは対照的で、論理的な理詰めの筆運びとなっています。この作品は映画化されたり、文化座が上演したりしています。

○『村岡伊平治自伝』 河合譲 昭和35年(1960) 南方社

 3,000人の娘を売ったと豪語する、この女衒(ぜげん)の大親分は、また、女を売るのも国のため、とうそぶいてもいるのです。資料としての信頼性はきわめて低いのだが、物語としてのおもしろさは抜群です。今村昌平監督は彼をモデルにした映画『女衒(ぜげん)』を撮り、緒方拳が主演しました。

○『ザンジバルの娘子軍(からゆきさん)』 白石顕二 平成7年(1995) 社会思想社

 アフリカの東海岸から南端にかけても、大勢のからゆきさんが陣を張っていました。ザンジバルはアフリカのタンザニアの沖合いにあり、そのさらに沖に浮かぶマダガスカル島と共に、日露戦争に際しバルチック艦隊の出現をいち早く通報したことで知られています。
 
○『カナダ遊技楼に降る雪は』 工藤美代子 昭和58年(1983) 晶文社

 加奈陀(カナダ)の晩香坡(ヴァンクーバー)の魔窟に売られた、からゆきさんたちの足取りを追った作品です。『哀しい目つきの漂流者』も、同じような題材です。工藤はカナダに在住していたこともあり、アメリカ大陸西海岸のからゆきさんを取材しています。

○『北のからゆきさん』 倉橋正直 平成元年(1989) 共栄書房

 『からゆきさんの唄』もそうだが、倉橋は満州やシベリアなどの北の地域のからゆきさんに焦点を当てて、執筆しています。現地取材ではなくて、新聞や雑誌などの引用が主となっています。ついでながら、『島原のからゆきさん』は、からゆきさんの菩提寺(ぼだいじ)ともいうべき「大師堂」(島原)を綴ったものです。

○『娘子軍哀史』 山田盟子 平成4年(1992) 光人社

 「からゆき、娼婦、糸工女たちの生と死」とサブタイトルにあります。山田にはこれに従軍慰安婦を加えた女たちについての広範な著作があります。上記の大師堂には、"紅怨(こうえん)"と彫られた、山田の名の入った碑も最近つくられています。


ほかにも若干ありますが、割愛します。

<周辺資料>

○『日本残酷物語 第1部 貧しき人々のむれ』下中邦彦編
○『女性残酷物語 I 底辺の女たち』谷川健一編
○『ドキュメント日本人5 棄民』谷川健一編
○『近代民衆の記録3 娼婦』谷川健一編
○『近代婦人問題名著選集続編 第5巻 売られゆく女』中嶌邦監修
○『岩波講座 近代日本と植民地5 膨張する帝国の人流』大江志乃夫他編
○『日本女性運動資料集成 第8巻 人権・廃娼I』鈴木裕子編
○『ものいわぬ群れ』林英夫編
○『人身売買』牧英正

からゆきさんの背景をさぐる資料としては、上記のほか多数あるが、おのおのについて説明することはここではしません。上記はとくに読みごたえのあるものです。

<島原・天草関係>

 島原・天草関係の本の中で、からゆきさんに触れた部分もある、地元で出版された本のいくつかを紹介してみます。

○『私の天草ノート』荒木十一 昭和42年(1967)みくに社
○『長崎女人伝』深潟久 昭和55年(1980)西日本新聞社
○『天草海外発展史』北野典夫 昭和60年(1985)葦書房
○『新・天草学』熊本日日新聞社編集局編 昭和62年(1987)熊本日日新聞社

 

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